外国人モデル事務所「株式会社フリー・ウエイブ」代表・高橋睦実の、モデルとして成功するための「モデルバイブル」。
前回は、「フリーランスモデルに伝えたい! やってない? モデル生命を脅かす2つの盲点」をお伝えしました。
「フリーランスモデルは、他にどんなことに気をつけなきゃいけないの?」
「フリーの仕事依頼が来たけど、ほんとにギャラが支払われるのかな?」
「実際に起きたトラブルが知りたい!」
こんな声にお答えして、今回は、フリーランスモデルが体験した、お金にまつわるトラブルを紹介します。
ギャランティを支払わずに逃げる人……
初めから支払うつもりのない人……
悲しいですが、そんな人は、この業界にも存在します。
これらは、実際に被害に遭ったモデルたちが、「他の人が被害にあわないために」と、公開を快諾してくれたものです。
被害を未然に防ぐためにも、ぜひ参考にしてください。
※エピソードはプライバシーを守るために一部変更しています。
あるフリーの映画監督がSNSで依頼をしてきたモデルAのケース
ある日、フリーランスの映画監督を名乗る人物から、モデルAにSNSを通して、出演依頼が来ました。
モデルAは、これまでも映画やCMに出演したことがあり、話を聞くと、面白そうな内容で、監督も感じの良い人……ということで、出演依頼を受けることに。
また、他にも人が必要だと知り、モデル仲間に声をかけることにしました。
人数が多く、そのために大きな金額が動くことを踏まえ、モデルAは、事前に契約書を締結したいと申し出ました。
監督は、支払い期日と金額を明記し、快く契約書にサインをしてくれました。
「契約を結べば、何かあっても安心だろう」
そうしてモデルAは、友人たちと一緒に、撮影を無事終了しました。
しかし、期日になっても支払いがありません。
おかしいと思ったモデルAが連絡をしたところ、監督の電話は、繋がらなくなっていたのです。
撮影後にトンズラ! 裁判をしても取り返せない!
「これは逃げられたかも!」
そう思ったモデルAですが、やはり何度連絡をしても繋がりません。
すでに撮影は済んでおり、声をかけた仲間たちもいる手前、支払いは絶対にしてもらわなければなりません。
モデルAは、最終手段として、裁判に踏み切ることにしました。
しかし、監督はギャランティを支払える経済状態ではなく、結果的に、金額の回収はできませんでした。
契約書があっても、相手に支払い能力がなければ、支払いされないことが多いのです。
結局、モデルAは、仲間たちのギャランティを自己負担で支払うことに。
その金額は、数十万と、高額なものになりました。
さらにこの監督の驚くべきことは、事前に妻の籍を戸籍から抜いていたことです。
端から見れば、ただの離婚に見えるかもしれませんが、負債を抱える前提で、妻に累が及ばないようにと、籍を抜いていたのが見えていました。
つまり、初めから支払う気のない、俗に言う「確信犯」といえるでしょう。
友だち経由でTVCMのオファーが来たモデルBのケース
モデルBは、仲の良い友人からTVCMの出演の誘いを受けて、承諾しました。
プロデューサーとも確認がとれて、さっそく撮影が開始されました。
撮影が終了し、契約書にサインを求められたモデルBは、その内容を見て手を止めます。
よくよく読むと、「買取」の契約で、ギャランティもそれに見合うものではなかったため、とてもサインができるものではなかったのです。
一般的に「買取」とは、無期限で使用できるということです。
広告の使用は、使用期間が定められることが多く、延長する場合は延長料が支払われます。
また、いつまで使用されるかわからないため、将来的に、競合のかかる仕事も受けられなくなります。
そのため、買取で仕事を請け負うには、それに見合うような金額で引き受けるべきです。
(競合についての参考:「競合・プロモーション・仕事も選べる? 専属モデルを目指す理由4点!」)
「この金額での買取は、さすがに困ります。5年使用で、このくらいの金額でお願いできますか?」
モデルBは、自分で交渉を試みました。
しかし、プロデューサーは首を縦に振りません。
結局、双方、納得がいかず、その日に撮影されたものは使えなくなり、関係者も、自分も、無駄な稼働になってしまったのです。
交渉の場面になっても、ひとりで戦うのが怖いと感じて、折れてしまう人が多いのが現実です。
世の中にはいろんな人がいます。
「仕事が決まってラッキー!」と安易に引き受けてしまう前に、十分に気をつけましょう。
支払い責任の所在、相手を見極める力を持っているか?
これらの話は、支払い能力の有無、支払い責任の所在が、キーポイントです。
モデルAのケースでは、相手がフリーランスの映画監督、つまり個人であることで、支払いがされにくかったといえるでしょう。
もちろん、個人だからという絶対的な決めつけはありませんが、個人であれば、影響範囲は自分のみということで、どうしても逃げやすかったり、自己破産申告をしやすい傾向にあります。
一方、企業であれば、なかなかそうはいきません。
抱える従業員、その家族、そしてこれまで培ってきたクライアントとの信頼を失うことになりますから、簡単には逃げることはできません。
もしもクライアントからギャランティが支払われなかっとしても、モデル事務所は、支払う義務があります。
モデルとも、そういった契約をしっかり交わしているのです。
モデルAはそのことをよく知っているため、自分の身を切って仲間たちに支払ったわけですが、やはり個人の蓄えで支払うのは、負担が大きすぎます。
フリーランスが増えた時代に、モデル事務所に所属する理由
モデル事務所にいる強みは、どんな状況であれ、「働いたぶんは支払われる」ということでしょう。
そして、モデルは、直接クライアントと交渉することはなく、自分の身も、そして「印象」もを守ることができるということです。
モデルBも、
「もしも事務所がいてくれたら、もうすこし、ちゃんと交渉ができただろう」
と肩を落としていました。
トラブルをきっかけに、親しくしていた友人と、ギクシャクするのも残念です。
モデル事務所は、経験や、業界内での情報網を駆使して、クライアントが安全かどうかを注意深く見極めます。
・どういった媒体で使用されるのか?
・どういった目的で使用されるのか?
・使用期間はいつまでか?
・撮影は安全か?
このようなことがはっきりしないと、モデルに仕事を依頼しません。
もちろん支払いについては保証があります。
それは、万が一、クライアント企業が倒産したという場合でも同じです。
このようなトラブルが起こりやすいのが明白なので、フリーランスがメジャーになって来た世の中でも、「モデル事務所」という業種が、いまも存在するということですね。
ギャランティの回収はモデル業界26年のベテランでも難しい
昨今、モデル業界に限らず、制作関係でも、第一線で活躍するフリーランスの方々が増えています。
フリーだからといって、決してネガティヴなイメージがあるわけではありません。
ただひとつ、フリーのモデルたちに伝えたいことは、
フリーランスだからといって、甘く見られないように気をつけて! ということです。
芸能界やモデル業界は、報酬の支払いは「売り掛け」、つまり後払いであることが多いです。
そのため、信頼がすべてといっても過言ではありません。
この業界で26年を経てもなお、もっとも難しいと感じるのは、支払いの回収です。
企業でも、倒産してしまったり、経営困難に陥っている場合は、期日までに支払いがされないことがあります。
ベテランでも苦労することですが、フリーランス(個人)は、後ろ盾がないぶん、どうしても、より甘く見られがちです。
ぜひ、気をつけながら、モデル活動をしてくださいね!
次回は、「 オーディションでも使える! 面接初日から事務所イチオシモデルになる方法!」を紹介します。