着物、美術、工芸、デザインなど、文化を広める活動に関わっていきたい!
日本の着物文化を研究して、自らデザインも行っているベルギー出身のSaskiaさん。日本の大学で博士課程を修了するなど、研究者の顔を持つ一方で、レポーターや音楽活動といったタレント業にもアクティブにチャレンジしています。日本文化への想い、日本語学習の大変な日々、タレント活動、日本での心細かったある出来事、そして将来の想いなどを伺いました。
着物は素敵なファッションアイテム
着物に興味を持ったきっかけは、アール・ヌーヴォーという芸術運動をベルギーの大学で研究したことに始まります。アール・ヌーヴォーとは、フランス語で「新しい芸術」という意味で、動植物や自然の造詣をモチーフに描かれている芸術です。
ベルギーではポスターや美術品に注目した研究を行っていました。ベルギーで修士課程を終えた後、日本の大学で博士課程に進学します。ここでもアール・ヌーヴォーの研究を行うのですが、私が入った大学がファッションの大学でもある「文化学園大学」だったため、日本のファッションとのつながりが必要でした。色々調べた結果、日本ではアール・ヌーヴォーが着物で表現されていることが分かったんです。
そこで、着物におけるアール・ヌーヴォーの表現と、着物の振興を研究することにしました。着物を理解するために、着物を実際に着てみたり、デザインにもチャレンジしました。
着物を研究することで、新たに発見したこともあります。
日本のみなさんは着物に不便さを感じることがあるかもしれませんが、私は全く逆の意見です。
正しく着ると楽に過ごすことができ、姿勢も良くなるんです。また、洋服とは全く異なったファッションシステムなので、独自にアレンジしたおしゃれも楽しめます。着物を理解すればするほど、とても素敵なアイテムだと感じています。
毎日毎日、日本語を勉強しました
私と日本との出会いは学生時代です。
当時、ベルギーの大学で日本学科に入った私は、18歳から日本語の勉強を始めて、大学(学士・3年)と大学院(修士・1年)と長期間勉強を続けました。
ベルギーの大学は学びに厳しく、「入学しやすくて卒業しにくい」という特徴があります。1年生のときには、ほぼ毎日日本語の授業があって、1週間で日本語の授業を約20時間受けていました。毎週ハイペースで続くので、勉強と復習の日々。結構大変でした(苦笑)。でも、そのおかげで4年後には日本語能力試験の1級を取得でき、その後は日本語教師の資格も取得。とても自分のためになったと感じています。
大学時代の2012年に、交換留学によって長野県・松本で1年を過ごしました。たった1年でしたが、日本文化について様々な刺激を受けた貴重な体験でした。その後、ベルギーの大学で修士課程を修了。博士への進学を希望して指導教員にアドバイスを求めました。すると、「東京にある大学で博士をしてみない?」との話をいただいたんです。交換留学が終わったあと、「もう一度日本に戻りたい」と思っていたこともあり、思いきってチャレンジしました。それが文化学園大学だったんです。
そして着物との出会いに続いていきます。
美術や伝統工芸に関わる仕事に興味
外国人モデル・タレント事務所「Free Wave」でのタレント活動は、ベルギー人の友人の誘いからです。ある企業がアフターワークの企画で異文化交流パーティーを開催していて、そのテーマの一つが「ベルギー」だったんです。企画者の一人がFree Waveを通してパーティーに出席できるベルギー人を探していて、すでにFree Waveで活動していた友人が参加することに。ところが、友人が急きょ出られなくなってしまい、私に声をかけてくれたんです。
そこで、私もFree Waveに登録して、友人の代わりにパーティーへ参加しました。それ以降、企画やモデルのお仕事の連絡をいただくようになり、興味もあったのでタレント業を本格的に始めることになったんです。
先日『NHKワールド』でレポーターの仕事をさせてもらいました。抹茶など日本の食文化にふれる企画内容です。特定のモノ・コトにスポットを当てて紹介していくレポーターの仕事は、研究活動にも少し似ていて、とても素敵な経験となりました。
将来、私は美術や工芸、デザインなどの振興に関わる仕事がしたいと考えています。今回の仕事を体験して、レポーターという仕事であれば、若いデザイナーや美術家、古くから継承される伝統工芸やクラフトを多くの人々に紹介できるので、機会があればぜひチャレンジしたいと思っています。
音楽活動のチャンスに恵まれている日本
私は日本人の友人と音楽のユニット活動もしています。友人はプロとしても活動しているので、日本の音楽業界を詳しく聞くことができています。その他、長く音楽活動を行っている外国人の友人も何名かいるので、様々な情報や活動の秘訣なども教えてもらえました。
結論から言うと、ベルギーと比べて日本の音楽業界は、駆け出しのアーティストにとって恵まれた環境だと思います。ベルギーでは演奏できる場所が限られていて、音楽家として結果を残さないと、ライブハウスなどの人前では演奏ができません。でも、日本では規模の小さいライブハウスがあったり、ライブバーも多いので、チャンスが多いと感じますね。もちろん、チャンスを活かすための努力は必要ですが、人前で演奏できる環境があることは素敵です。
心細かった初めての病院
日本に来てから、とても困ったことは幸いにもないのですが、不安で心細かった経験があります。
2017年の話で、私は家や大学、アルバイト先をキックボードで通っていました。ある日、急いで家から大学に向かおうとしてキックボードを蹴ったところ、キックボードを背負うための紐がタイヤに絡んでしまったんです。キックボードが急停止した反動で、私は前に飛ばされて、あごから歩道にぶつかりました。大きな傷となって、私は病院に行かなければならなかったのですが、それまで一度も日本の病院に行ったことがなかったんです。アルバイト先の知り合いに電話すると、色々アドバイスをしてくれて、救急車で病院に運んでもらいました。無事に病院で傷を縫ってもらえて、大事には至らなかったのですが、あのときの心細さは今でもはっきり覚えています。日本人の優しさを知った出来事ともいえます。
このまま日本で仕事や活動を続けていきたい
将来は、このまま日本で就職したいです。例えば研究を通じて集めた情報を、デザイン・美術・工芸などの振興に活かすことができれば嬉しいです。思い描くキャリアは、技術館の研究員になったり、グッドデザイン賞を企画するような企業でデザイナーや美術家を探し出したり、企業でデザインやファッションに関する研究をして発表したり。日本とベルギーの美術と文化を広める企業で調査・貢献したり。レポーターとしてクラフト・工芸・美術の知識を広めて、ここに関わるアーティストたちを振興するチャレンジも魅力的ですね。あと、日本人にもっと着物を着て欲しいので、着物の活動も続けていきたいです。ベルギーには特有の衣装がないので、着物はとても素敵な文化だと感じています。洋服とは全く違うルールでアイデンティティを表現できるので、ファッションアイテムの一つの選択肢として広がっていけば嬉しいですね。この素敵な文化を将来にもつなげていきたいです。
もう一つ、将来を語る上で大きな夢があります。子どもの頃から『キャッツ』のミュージカルが大好きで、キャッツのミュージカルで『memories』が歌えたらどんなに素敵だろうとずっと思い続けています。いつか叶うといいな!
(TEXT:Saskia/EDITOR:Write Design )
新しい芸術を追求し続けるベルギー出身の才女