株式会社フリー・ウエイブ代表・高橋睦実の、モデルとして成功するための「モデルバイブル」。
前回は、「私はモデル事務所に入れるの? まずは知りたい2つの契約形態と仕事の種類」をお伝えしました。
前回の記事を読まれた方はご存じのとおり、モデル事務所の契約には、主に「専属」と「登録」があります。
「いまどきフリーランスの時代なのに、専属って何が良いの?」
「登録のほうが入りやすいし、制限もないし、メリットが多くない?」
こんなふうに感じている方もいるかもしれません。
しかし、モデルとして仕事に100%打ちこみたい人には、専属契約は、他の契約形態とは比べものにならないほどの強みがあるのです。
今回は、その「専属」について、重要な4つのポイントに絞って、具体的に掘りさげていきます。
モデル事務所の「専属契約」&「登録制」メリット・デメリット
まずは専属契約と、登録制のメリットとデメリットを、もういちど確認していきましょう。
専属モデル
・契約形態
一つの事務所に入る独占契約。
仕事はすべて事務所を通し、直には受けない。
大手のタレント事務所や、老舗のモデル事務所に多い。
国内に外国人モデルを招聘する「招聘事務所」も、契約形態はこれになる。
・メリット
ひとりひとりのマネージメントを丁寧にしてくれることが多い。
スケジュールや競合管理も請け負い、プロモーションや営業などに力を入れてくれる。
売れっ子になれば、一対一で担当マネージャーがつくことも。
・デメリット
自分の理想とするプロモーションと違う場合がある。
やりたい仕事があっても、事務所に依頼がこなければ、チャンスを逃すこともある。(他の事務所から仕事は受けられないため)
・所属方法
書類選考、オーディション・面接に続き、合格者のみ連絡が行く、といった流れが一般的。
もしくは、スカウトや、ミスコンに出場して、事務所から声がかかることもある。
・ギャランティ
月額固定給、または、全体から一定のパーセントを支払うといった歩合制もある。
登録制モデル
・契約形態
フリーランスとして、複数の事務所に登録が可能。仕事があったときにのみ連絡が来る。
事務所以外でも、クライアントから直に仕事を受けることが可能。
一般的な日本人向け事務所では少なく、長期で日本に滞在している外国人モデル事務所に多い。
・メリット
仕事のチャンスが増える。
業界に入りやすい。
・デメリット
スケジュールや競合の管理、宣材写真準備などを自分でやらなければならない。
ダブルブッキングや競合のバッティングなどのトラブルは自己責任になる。
事務所は個人のプロモーションはほとんどしない。
・所属方法
Webサイトから登録、アポイントメントを取ることが多い。
書類選考、面接ののち、登録。
・ギャランティ
全体から一定のパーセントを支払う、歩合制。
参照:「私はモデル事務所に入れるの? まずは知りたい2つの契約形態と仕事の種類 」
専属モデルのデメリットは制約? でも、理由を知れば怖くない
上のリストを見ると、専属契約と登録制は、どちらにも一長一短に思えます。
むしろ、専属は、所属のハードルが高いうえに、自由度の少なさが気になるかもしれません。
たしかに、専属になれば、スケジュールは事務所が管理することになりますし、イメージを守るために仕事を厳選したり、場合によってはプライヴェートの振るまいについても言及することもあります。
なぜかといえば、「モデルに確実に稼いでほしい」という思いがあるからです。
プロのモデルは言うまでもなく、モデルの仕事で生きています。
生活のために、収入が保証されなければいけません。
そのためには、どうしたら仕事が取れるのか?
それを第一に考えて、事務所は責任を持ってマネージメントをします。
モデルが自由に動くことで起きやすいトラブルを、未然に防ぐことも、事務所の大切な仕事です。
どうしても、事務所がパワーを持ち、モデルが拘束されているように見えてしまいがちですが、そうではありません。
良い事務所であれば、モデルと相談を重ねたうえで、方針を決定していくはずです。
もちろん、教育のために厳しいことを言ったり、「こうしたほうがいい」と断言することもあるかもしれませんが、それはモデルの成功を望んでのことです。
なにより、この関係は、一方的なものではありません。
モデル側からも、仕事について、いろいろな相談ができます。
なにかあれば、事務所はモデルを守る立場になりますし、業界のプロにいつでも相談できるというのは、個人プレーではできない、専属最大のメリットです。
目指せ専属! クライアントから見ても安心の強み4つ
さらに掘りさげると、専属契約にはまだまだ大きなメリットがあります。
専属モデルの強み①「プロモーションやイメージ戦略」
先にも触れたように、プロモーション(売り出し方)を一緒に考えてもらえるのは、専属の強みです。
とくにモデルは、イメージが大切な広告業界と密接な職業ですから、そういったサポートは欠かせません。
もちろん、どうすれば売れるのかという相談もします。
人は、案外、自分を客観的に見ることが苦手です。
たとえば、好きな服と似合う服が違うということは、よくあることです。
同じように、自分がどこのマーケットに需要があるのか、売れる路線は何なのか?
そういったことを自分で見抜くのは、困難です。
業界経験が少なければ、なおのことでしょう。
・コンポジットの写真はクールにするか親しみやすいものにするか?
・教育系を目指すのか、バラエティ系を目指すのか?
・そのためには、どんな仕事を受けていくべきか?
一例ですが、マネージャーとはこんなことを相談していきます。
また、本人が望むことでも、仕事がなくなる可能性があれば、あえて厳しい意見も伝えます。
マネージャーは、クライアントの要望を聞いて、オーディションに送り出し、仕事を獲得したモデルたちのマネージメントをしているので、どんな需要があるのかを把握しています。
彼らも業界のプロであり、そのマネージャーと密に相談ができるのは、専属ならではです。
専属モデルの強み②「競合管理と逆競合の予測」
この業界の「競合」とは、いわゆる、クライアントの業種や、商品のかぶりです。
たとえば、モデルが、自動車メーカーAの広告で「競合あり」として仕事を引き受けた場合、その契約期間中に、自動車メーカーBの広告の仕事を受けることはできません。
広告の顔になったモデルは、その商品を推薦していることになります。
同じ人物が、ライバル社の製品を宣伝するのは、矛盾してしまうというわけです。
また、「逆競合」というものも存在します。
たとえば、自動車メーカーAに「競合なし」で出演した場合、それがエキストラだったとしても、自動車メーカーBのメイン出演が不可能になります。
どれだけAが「OK」と言っても、Bが「NG」と言えば、仕事は受けられません。
競合の管理は、たくさんの仕事をこなせばこなすほど、難しくなっていきます。
とくに、逆競合は盲点になりやすく、「競合あり」の仕事を把握している人はいても、「競合なし」になると、覚えていないケースが多いのです。
エキストラの端役で登場したとなれば、仕事そのものを覚えていないという人もたくさんいます。
例として、毎月、5本のCMの仕事をした場合を考えてみます。
年間で60本になり、3年後には180本です。
180本分の商品や契約内容を、常に把握できるでしょうか?
「競合あり」の仕事の依頼があった場合、いつ、どんなブランドの仕事をしたかを遡り、確認しなければなりません。
これらを個人で管理することも可能ですが、表計算ソフトや、システムなどでしっかりと管理しなければ困難ですし、きちんとできている人は、ほとんどいないのが現状です。
これは、仕事を依頼するクライアントにとって、とても不安なことです。
クライアントが、モデルの過去の仕事を洗い出すのは、ほとんど不可能です。
しかも、複数人起用する場合は、ますます非現実的になっていきます。
個人では、本人が申告しない限り、クライアントやキャスティング会社は状況がわかりません。
間違えて申告したり、忘れてしまったりなど、あとになって競合がバッティングしているとわかれば、大変なことになります。
大げさではなく、「様々な会社の重役の首が飛ぶ!」ほどの問題で、訴訟にもなりかねません。
その点、事務所に所属していれば、事務所が競合のデータを管理していますから、クライアントは、事務所に確認すれば済みます。
たとえ事務所を移籍していたとしても、現在の事務所が、過去に所属した事務所に確認をとればいいので安心ですし、楽なのです。
責任の所在も明確です。
なお、登録制がメインの事務所でも、競合を気にかけてブッキングをするはずです。
ただ、どうしても確認作業は大変になり、個人の申告に頼らざるを得ません。
あるキャスティング会社の人は、
「フリーランスは競合管理ができているかわからないから、仕事を頼めない」
「全員専属にしてほしい!」
と本音を漏らしていました。
競合管理は、それだけ重要な問題なんですよ!
専属モデルの強み③「仕事を選べる・逆競合の予測」
競合問題は、バッティングの不安もありますが、キャリアの側面でもよく考えなければなりません。
すでに説明したとおり、自動車メーカーAのCMに出た場合、競合他社のCMの依頼が来ても、出演できません。
それが、好条件で、ギャランティも高く、知名度アップの可能性があったとしてもです。
事務所では、このような逆競合の可能性も考えて、仕事を吟味しています。
「この子は他でメインの良い仕事がとれるはず! だからこの仕事は断ろう」
と、判断することもあるのです。
また、その仕事が、正当な報酬であるか、イメージを壊すものではないかの判断も大事です。
「断ると、次の仕事がなくなるのではないか……」
「いつ仕事があるかわからないので、断れない」
このように、個人だと、目の前にやってきた仕事を断ることはリスキーに感じてしまいがちですが、業界経験が長い事務所であれば、将来のことを考えて、あえて断るといった勇断も可能になります。
専属モデルの強み④「ダブルブッキングを避けるスケジュール管理」
仕事が増えてくれば、競合と同じように、スケジュールの管理も大変になってきます。
専属モデルの場合は、事務所がスケジュールを管理してくれますので、ダブルブッキングは起きません。
撮影にはたくさんの企業や人が関わっています。
リハーサルや本番の日をずらすことは、容易ではありません。
万が一、ダブルブッキングなどで、一方の現場にいけなくなった……なんてことになれば、大きなトラブルになってしまいます。
競合と同じく、スケジュールの管理が苦手な人は、意外と多いです。
あってはならないことですが、ダブルブッキングは思った以上に頻繁に起こっている問題です。
登録制の事務所にもマネージャーがいるけど、それじゃだめなのか?
なぜ登録制の事務所では、これらのサポートが難しいのでしょうか?
理由は、シンプルです。
ずばり、所属人数がとっても多いからです!
登録制がメインの事務所は、依頼された仕事にあわせて、モデルを探すスタイルです。
よりキャスティングにマッチする可能性を高めるために、たくさんの人数を抱えています。
事務所によっては、何千人も登録しているので、個人個人に力を入れて、スケジュール管理をし、プロモーション活動に取り組むことはほぼ不可能なのです。
もちろん登録制の事務所でもマネージャーはいますが、専属のマネージャーとは役割が違います。
・登録制のマネージャー
仕事(案件)に対してのマネージャー。
仕事ごとに担当が変わる。
・専属のマネージャー
モデル個人に対してのマネージャー。
担当モデルの仕事のすべてに関わる。
登録制事務所のマネージャーでも、仕事についての相談は可能ですが、将来を見据えて、モデルとして本格的に活動するためには、専属マネージャーがついて、しっかりとプロモーション戦略を考えるほうが有利でしょう。
専属になれば、モデルはプレイヤー!
あとのことは事務所にまかせて!
そうはいっても専属は難しい? それなら登録から専属への道もある
前の記事で説明したように、専属契約は、たしかにハードルが高いです。
キャリアも経験もない人が、いきなり専属モデルになるのは、なかなか難しいでしょう。
とはいえ、チャンスがないわけではありません。
なかには登録契約でモデル業をスタートさせ、自分がどのくらい仕事ができるかを見極めてから、事務所と信頼関係を築き、専属契約になる人もいます。
「もっと自分のやりたい方向に進みたい」
「ほんとうにこのままでいいの?」
「毎日、来た仕事をこなすだけで、ゴールへの道筋が見えない」
「事務所のサポートがもっと欲しい!」
今、フリーランスや登録契約で活躍しているモデルの方で、このように感じている方がいれば、事務所に専属契約の相談をしてみるのも、ひとつの手です。
その際は、過去の記事「事務所はどうやって選ぶ? 芸能事務所とモデル事務所の違いとは?」などを参考に、
・事務所の得意とするジャンル、カラー、方向性の調査
・自分のやりたいことの明確化
・スキルアップの努力
これらを忘れないでくださいね!
以上、専属モデルを目指すメリット4点を説明しました。
そして、もうひとつ大事なことですが、ぜひ都内に住んでくださいね!
オーディションは都内が多いため、フレキシブルに動ける人でないと、チャンスは掴めません!
次回は、「フリーランスモデルに伝えたい! やってない? モデル生命を脅かす2つの盲点」をお届けします。